ふと思う。
最高の暮らしとは何なのだろうか。
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山梨に生まれ、山梨で育ってきた私は思うのだった。
日々の仕事に明け暮れ、毎日が家と職場の往復。
幸いお金を使う時間もなければ、愛するパートナーもいないので貯金が増えていくのがまだマシなところだ。
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ある日、いつも通り夜中まで残業していると、同僚の青木が深夜のカップ麺を食べながら話しかけてきた。
どうやら最近引っ越したらしい。場所は甲府駅の中心街近くの高層マンション。
毎日夜中まで飲みに出かけている酒好きのこの男にはぴったりだろう。
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そういえば3日前くらいにアパートの不動産会社から更新の便りが届いていた。
今の部屋に住んで早くも3回目の更新を迎えようとしている。
確かにそろそろお部屋を変えるタイミングなのかもしれない。
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ちょうどタイミング良く来週の水曜日に休みを取ることが出来た。
どうせやることもないし、一念発起して年度初めのこの時期にお部屋探しをしてみることにした。
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早速紹介してもらった不動産会社(青木もこの不動産会社で借りたらしいが、このことは青木には言っていない)に連絡し、
適当な時間でアポイントを切る。
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どうせ家にいる時間はほとんどないので家賃の高い高級な部屋に住む必要もないし、あとは適当に落ち着く静かな場所に住みたい。
なので条件は「安くて心が休まるところ」この一点のみだ。
あと強いて言うなら職場が韮崎なのでその近くが良いかなとは思っている。
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希望条件を伝え、いざお部屋探しに。
起きるのが遅く、少し遅刻したのもあり既に時刻は16時を回ってしまっていた。
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1件目に案内されたのは眺めのいい高層マンションの高層階。
確かに眺めは綺麗だが、生憎ただ寝るだけの場所にこんな金額は払いたくない、と正直思ってしまった。
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そんなこんなで良いなと思うお部屋が見つからないまま最後のお部屋についた。
場所は甲斐市宇津谷。20号から北に上った自然に囲まれた静かなところ、そんな第一印象だった。
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お部屋の中は天井が高く、リビングの窓が高い位置にもついているので、
自然の光が心地よく部屋に入ってくる。
間取りも一人で暮らすには十分な広さである、悪くない。
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お部屋の内覧を終え、事務所に戻ることになった。
ちょうど近所の家で夕食の準備をしているのか、美味しそうな匂いがする。
学校帰りの高校生がきつそうに坂を上ってきた。
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帰りの車の中で内覧した部屋の中でどれにしようかな、と考えていたその時。
車窓から急に眩しい夕焼けが差し込んできた。
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見ると、櫛形山の山頂から差し込むオレンジ色の光が甲府盆地一帯を照らしてる。
綺麗だ。
気が付くと担当営業マンの言葉を全く無視して私はその景色を眺めていた。
そんな雰囲気を感じたのか、営業マンも以後は喋らず運転に集中している。
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事務所についても最後に案内された部屋の帰りに見たあの景色が忘れられず、
また値段や立地の条件も悪くなかったため私はその場で引っ越し先をこの部屋に決めた。
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そんな感じでこの春から私はこの「サンライフ荻原宇津谷」に住んでいる。
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実を言うと、あの日見た程の綺麗な夕焼けを以来見ることができていない。
それでも休みの日は必ず夕焼けを見に、近所の眺めの良い高台に歩いて出かけている。
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ふと思う。
『最高の暮らし』とは何なのだろうか。
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その答えはまだはっきりとは出ていない。
だが確かに少しづつ、私の生活は変わりつつある。