日本におけるコーヒーの歴史は、江戸時代にオランダ人が持ち込んだという説が有力な情報だとされている。明治時代には、喫茶店というかたちで軽食や果物、コーヒーや紅茶などを提供するお店が増え、コーヒーは庶民の味のひとつとして親しまれていったようだ。現在は「サードウェーブ」の真っ只中、ファースト、セカンドに続き、コーヒーが新たなムーブメントを起こしている歴史的第3の波がきているということ。「朝の一杯がたまらない」と言う人や、「食後のコーヒーはホッとする」と言う人など、コーヒーの楽しみ方は人それぞれ。しかしながら、せわしなく暮らす現代の私たちにとって、「コーヒーは日常」と言っても大げさではない程大切なモノ。
そこで今回は、ここ山梨県でコーヒーショップを営む3人に”コーヒーと○○”をテーマに話を聞いてきた。コーヒーが大好きな人はもちろん、今からお店を持ちたいなと思っている人にもぜひこの記事を読んでもらいたい。
コーヒーと北欧
最初に紹介するお店は、言わずと知れた人気店「寺崎コーヒー」。甲府の紅梅通り沿い、KoKori隣に位置するスタンド型コーヒーショップだ。2012年のオープン当初、山梨にはないスタイルとして話題となりその名を知った人も多いかもしれないが、オーナーである寺崎亮さんは”流行”という文字に驚くほど無関心な人だ。大学進学を機に、故郷大阪を離れ、遠い山梨の地にやってきた寺崎さんは、卒業後バックパッカーとなった。ヨーロッパを中心に10カ国以上を周り、ヨーロッパ諸国の人々とカフェとの繋がりを知ったと言う。
「日本のカフェのイメージとは全く異なっていて、すごく日常の中に溶け込んでいたんです。色々なカルチャーが混ざり合っているというか…。とにかくとても印象深かったですね」
当時の感想をこんな風に話す寺崎さんは、帰国後かねてから親交の深かった知人の助けもあり、お店をオープンさせることになった。旅で出会ったフランスのカフェ&バーのイメージを甲府に再現させたと同時に、独学でコーヒーを学び始め、その魅力にどんどんハマっていったと言う。
オープンから7年ほど経った頃、寺崎さんは結婚という人生の大きな節目を迎えた。これを機に、かねてよりチャレンジしたいと思っていたコーヒーにこだわったお店の出店を決意したのだ。
「今までやってきたお店をたたんで新しいことを始めるのはなかなかの決意が必要でした。でもコーヒーでチャレンジしてみたかった。コーヒーの消費率の上位を占める北欧のように、もっと日常にコーヒーがある喜びを山梨にも伝えたいと思いました」
日常にコーヒーを提案するために選んだ場所は、甲府の中心商店街の一角だ。街を行き交う人と挨拶を交わしながら、地域に溶けこむコーヒーショップを目指した。そして、コーヒーショップの有名店があると聞けば、西へ東へ足を伸ばし実際にその姿や味を体感することで、更なる知識や技術の底上げを図ったのだ。
「北欧では、コーヒーを日本人の約3倍飲むと言われています。それは、それだけの量を飲めるコーヒーだということ。品質の良い生豆を丁寧に浅煎り焙煎し、香り豊かな豆の味を楽しむ。何杯でも飲みたくなるようなコーヒーに仕上げることにこだわっています」
焙煎機を購入することからお店づくりを始めたという寺崎さん。穏やかな雰囲気からはとても想像できないが、決意したことへ妥協を許さない姿勢や、コンセプトを崩さない徹底したスタイルに職人気質を感じることができる。
「実は、近くに住んでいるんです。住んでみたらこの土地のことがもっとよく分かるようになるし、もっと日常に溶け込んだコーヒーを作ることが出来ると思って」
と寺崎さんはやっぱり穏やかに笑う。
訪れたこの日も、通りがかりに寺崎さんと挨拶を交わしていく人や、コーヒー片手に寺崎さんとの会話を楽しむ人の姿が印象深かった。流行とか、おしゃれとか、そういうことではなくて、寺崎さん自身がやりたかったことを貫いているのだろう。話をしてみないと分からないことって意外とたくさんあるものだなと改めて感じることの出来る日になった。ふんわりとした中にどこか男性的な空気が流れるこの場所は、きっとこれからも長く愛され続けて行くのであろう。
そんな寺崎さんの淹れるコーヒー、どうぞ召し上がれ。
寺崎コーヒー
住所:山梨県甲府市丸の内1-20-22
電話番号:055-233-5055
営業時間:平日 7:30~18:00
土・日 10:00~18:00
定休日 月曜日
コーヒー器具お買い上げの方10%OFF
※2019年3月末までの期間限定
※VivitBaseの管理物件入居者の方のみのサービスとなります。
ご注文の際は入居者カードを使用する旨をお伝え頂き、店頭にてご提示ください。(カードのご提示が確認できない場合は、サービスをご利用頂けません。)
―近隣物件情報―
コーヒーと朝
次に訪れたのは、甲府駅北口より徒歩5分の場所にある「AKITO COFFEE」だ。2階建のこじんまりした店構えであるにも関わらず、朝早くから訪れる人が後を絶たない人気のコーヒーショップ。ブルーボトルコーヒーの日本上陸が火付け役となり、よく耳にするようになったコーヒー界のサードウェーブ。アメリカのサンフランシスコがその発信地とされ、アキトコーヒーも品質の良い豆本来の香りや旨みを楽しめる、まさにその波を象徴するかのようなスペシャルティーコーヒーが飲めるお店だと言えるだろう。
オーナーである丹澤亜希斗さんは、都内の飲食店で働きながらも自分のお店を持つことを夢見ていた。地元である山梨での出店を願っていたこともありUターン、当初メキメキと頭角を現してきていたコーヒーショップに目をつけたのだ。関東を中心とした人気店に足を運び、研究を重ね自分なりの焙煎を繰り返し、現在の味を作り上げたのだと言う。
「世界的にも有名な美味しいコーヒーと言われているコーヒーは、全く苦味がないんですよ。生豆の果実味を感じられる香りや味がするんです。これが本当のコーヒーなんだって思いました」
ワインと同じように、栽培された土地や品種によって味はもちろん、香りも色も大きさも違う。違う果実を使って作るのだから果実本来の旨みを提供したい。そんな丹澤さんの想いもあり、このお店で出されるのは、焙煎所で丁寧に浅煎りするブレンドしないシングルオリジンだ。そして、店内のカウンターから外まで、たったの一歩で繋ぐという近い距離感にもこだわっている。
「日常的に使ってもらえるお店にするためにお客さまと気軽にコミュニケーションを取れる距離感を意識しています。そして、お誘いがあればイベントに出店することもあります。山梨の甲府にはこんなお店があるんだってことを知ってもらい、甲府を訪れるきっかけになれば嬉しいなと思っています。人と出会うことって単純に嬉しいじゃないですか。ここがそんな場所にもなっていけたらいいですよね」
丹澤さんは続けてこう話す。「朝のコーヒーは、本当にホッとするし活力になる」彼は、そう断言し、朝のコーヒーを推奨している。ゆくゆくは朝の営業にシフトしていけたらいいなとも話しているくらいだ。そして現在焙煎所のある、甲府市の五味醤油の蔵を間借りしている空間も、来年春には店舗展開できるように進めているという朗報も聞くことができた。
そんな丹澤さんが淹れるコーヒー、どうぞ召し上がれ。
AKITO COFFEE
住所:山梨県甲府市武田1-1-13
電話番号:055-254-3551
営業時間:平日 7:30~18:00
土・日 10:00~18:00
定休日 月曜日
※2019年3月末までの期間限定※VivitBaseの管理物件入居者の方のみのサービスとなります。
ご注文の際は入居者カードを使用する旨をお伝え頂き、店頭にてご提示ください。
(カードのご提示が確認できない場合は、サービスをご利用頂けません。)
―近隣物件情報―
ラテアートと国母
最後に紹介するのは、2018年9月20日にグランドオープンを迎えた「the;kokubo」。甲府市中央卸売市場近くの国母エリアに位置するのだが、人通りが多い道路に面しているにも関わらず、目立つ看板もなく、お店だと知らなければうっかり見過ごしてしまうかもしれないシンプルな建物だ。オーナーである網倉正人さんは、甲府市出身。調理専門学校を卒業後、外の世界を見てみたいという冒険心を抑えられずに単身オーストラリアへ渡った。初めての海外で学んだものは、語学とお酒。そんな中、メルボルンで“フリーポア”のラテアートに出会い、その技術の高さや美しさ、味わい深さに衝撃を受ける。帰国後、日本各地の飲食店で働き、資金集めをし、23歳の時に甲府でカフェ&バーを出店した。
オープニングスタッフの一人だったバリスタがラテアートをする姿を見て、あの日に味わった衝撃を思い出したのが今につながる大きな分岐点だったと教えてくれた。
「あの時の感動を思い出したら、どうしても自分でやりたくなって。それから毎日練習しました」
「メルボルンにいた時は、まだ19歳でした。コーヒーで魅せる新しいアートの世界があることに驚きましたね。おいしくて、繊細で、本当に素晴らしくて。フリーポアで綺麗なコントラストを生み出すためには、良い状態のエスプレッソときめの細かいフォームドミルクが必要なんです。それって見た目の美しさだけじゃなくて、エスプレッソの高い質とか口当たりの良さにつながるんですよ。ふわふわのクマとかキャラクターを描くエッチングという技法とは違って、淹れたてから短時間で提供できるので、ほんとうに一番おいしい状態で味わってもらうことができるんです」
そう一息に話す網倉さんは、魅了されている人にしかできない少年のような目をしていた。
この“フリーポア”とは、ラテアートの技法の一つで、Free=何も使わず、Pour=注ぐ、という意味だという。ミルクを注ぐ動きが生み出す対流だけを利用して模様を描く技術。世界大会も行われているが、競技種目はフリーポアのみ。網倉さんは、このシンプルなだけに誤魔化しがきかず、技術の差が顕著に表れるラテアートに対して「知れば知るほど惹かれていくんです」と、はにかみながら俯いた。
そんな網倉さんには、少し特別な過去がある。西アフリカで過ごしたとても貴重な経験だ。
網倉さんにとって、甲府とマリ共和国はどちらも何物にも代えがたい大事な故郷であり、今の自分のベースになっていると話してくれた。
「マリへは、毎年数ヶ月間行くようにしているんです。でも今年は、確かにもともと危険地域ではありましたが、渡航のビザが下りないという問題があって行くことが出来なかった。行きたいのに行けない。そのことで僕は、ずっと悶々としていたんです」
コーヒー豆の有名な産地にはアフリカ大陸の地域も多く含まれている。より良いエスプレッソを求めていく中で、自然と現地で生豆を手摘みをしていた人々の姿が思い出されていく日々。そんな網倉さんに、昨年またひとつ大きな転機が訪れた。
この建物は、もともと焼鳥屋さんだった。閉店後、しばらくして、この独特な空気感のある国母という地域で“新しいつながりの生まれる場所を作ってみないか”かという誘いがあったのだ。網倉さんはこの時、「新たな転機が訪れたのを感じた」と言う。その新しい風は、網倉さんを中心にしてものづくりを愛する人々を呼び込んだ。店内の残置物を解体するところから始めて約3ヶ月、セルフビルドにて作り上げたのが「the;kokubo」という新しいお店である。
大工×庭師×バリスタという異色の組み合わせで造られた店内からは、自然の息を感じる。溶岩で積み上げたカウンターは、立派な一枚板が印象的。素材や工法など細部までこだわっているので、店内を眺めて歩くのもおもしろい。若い職人だからできたであろう柔軟な発想と、網倉さんの独特な世界観が融合している空間だ。縁台や植物もセンス良く彩りを添えていて、日本庭園の新しい姿のようにも見える。
コーヒーは、1日3回の焙煎を繰り返し、品質の良い豆を深煎りしてオリジナルブレンドしている。自動焙煎機を導入しているお店が多い中、網倉さんは手回しの焙煎にごだわる。「少量ずつしか焙煎できないとしても、その日その時の気分に合わせた調整ができる」からだと言う。焙煎中、コーヒー豆は、鳴く。タイミングが合えば深煎り段階に入った焙煎時にコーヒー豆が出すピンピンという気持ちの良い爆ぜ(ハゼ)音を聞くことができ、香ばしい豆の匂いとまるで水琴窟のような澄んだ音色の広がる空間に癒されるに違いない。
また、月曜のみランチ限定でアフリカンフードも提供しているので、国内ではまだ珍しい西アフリカの料理を味わうことができる。食べたことのない味なのだが、とにかく美味しい。
独特の感性で我が道を進み続ける網倉さん。それは日本のみならず遠く離れたマリの地で続けている活動があるからこそ、この場所にしかない世界観を生み出しているのかもしれない。網倉さんの中には、ラテアートへの熱情とともに、いつもアフリカの音楽や空気が流れているのだろう。それが網倉さんの生きる力になっているようだ。
網倉さんは、最後に「the ; kokuboは、コクボではじまりコクボから繋がっていく。そんな意味が込められた名前です」と教えてくれた。人の持つ生きる力と、人と人とのつながりを大切にしてきた網倉さんらしいお店だ。
そんな網倉さんの淹れるコーヒー、どうぞ召し上がれ。
the;kokubo
住所:山梨県甲府市国母4-22-16
電話番号:080-4638-6066
営業時間:平日 8:00~19:00
金・8:00~0:00 土・10:00~0:00 日・10:00~19:00
定休日 水曜日
または、タンブラー300円引き
※どちらも1回限り※VivitBaseの管理物件入居者の方のみのサービスとなります。
ご注文の際は入居者カードを使用する旨をお伝え頂き、店頭にてご提示ください。
(カードのご提示が確認できない場合は、サービスをご利用頂けません。)
―近隣物件情報―
文章:堀内麻実(anlib design)
写真:anlib design