子どもの頃から当たり前に食べていた「カレーライス」。もはや日本の国民食と言っても過言ではないはず。それだけ皆に愛され、食卓の定番となっているカレー。ここ最近では、スパイスを巧みに操った本格的カレーが人気で、山梨にもインドカレーをはじめタイカレー、欧風カレーまで、いろいろな味を提供してくれる店がたくさんあり、それぞれにこだわりを持って独自の味を追求している。そんな魅力ある店の中から、3店を厳選して紹介しよう。
発酵でココロもカラダも喜ぶ「ハチドリヤ」のタイカレー
場所にとらわれず、カタチにとらわれず、自分が自分でできることをしていく
森が燃えていました。
森の生きものたちは、われ先にと逃げていきました。
でも、クリキンディという名のハチドリだけはいったりきたり。口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは、火の上に落としていきます。
動物たちがそれを見て「そんなことをして いったい何になるんだ」といって笑います。
クリキンディはこう答えました。「私は、私にできることをしているだけ」。
絵本「ハチドリのひとしずく」の一遍。
敬愛するミュージシャンから教わった詩である。店主の馬場さんは、そんなクリキンディのように自分の信じるコトを。自分が正しいと思うコトを続けていけるようにと、クリキンディに大いなる憧れを込めて自身の店名を「ハチドリヤ」と名付けた。
トコロにとらわれず、カタチにとらわれず、ただアジにこだわって。店舗を持たず、イベント出店やシェアキッチンでの販売、テイクアウト配達などジプシーのように放浪するスタイルの「ハチドリヤ」は、タイカレーを振る舞う馬場さんが営む。両親が営んでいた惣菜屋をセルフリノベーションした「僕のものです」と話す調理器具がキレイに並ぶ厨房で、食材とともに独自の料理が生まれる。
聞けば山梨に帰ってくる前は、鎌倉で飲食店を構えていたという。進学のため上京し、空間デザインや飲食関係の仕事に従事した馬場さんは、いくつかの店舗デザインや新店舗の企画、運営に携わったことがある。そのときに感じていた「いくらカッコ良いデザインにしても店の空気感はそこで働いている人が作る」という想いから、鎌倉で自身の店を持つことにした。東京で15年、鎌倉で3年の月日が流れ、山梨に帰ることを決意。タイカレーを提供しようと思ったのは、8年ほどタイ料理店での勤務経験があったからと教えてくれた。ハーブや調味料の使い方、タイ料理の基礎はそのときタイ人シェフから学んだものだ。
まだまだ完成形ではない。これからも試行錯誤しながら、ココロとカラダが喜ぶ料理を作っていく
タイカレーの特徴は、マイルドな辛みがクセになる味わいで、唐辛子・レモングラス・タイ生姜・コリアンダー・にんにくなどのハーブやスパイスを組み合わせ、ココナッツミルクでまろやかに仕上げるサラサラとしたソースがポイント。タイカレーを代表するグリーンカレーを思い浮かべてくれると想像がつきやすい。「一般的なタイカレーのソースは水っぽいため別皿に入っています。でも、それを敢えてご飯にかけたらどうだろう」と馬場さんならではの見解で、日本のカレーやインドカレーのように直接ご飯にかけて提供する。タイ料理の辛い・匂いがきついという先入観をなくしたい。いろいろなセオリーを打破して「自分にしか作れないカレー」を作りたい。そんな発想から生まれたのが、ハチドリヤのカレーだ。
さらに「化学調味料は好ましくないけれど入れないとなにか物足りない。身体に良いものって様々で何を食べたらいいのか分からなくなってしまうけれど、悪いものは摂らなければいいだけ。身体に悪そうなもの、よく分からないものは使わない。代わりに深みを出すものを探したとき、麹に辿り着きました」と、ハチドリヤのカレーは添加物を使わず旨味の素となる「麹」を使用する。
ハチドリヤのカレーはハーブやスパイスを麹と混ぜ合わせ、ペーストそのものを発酵させる。一週間熟成させて出来上がるペーストは、グリーン・レッド・イエロー・ゲーンソム(酸っぱい味わい)・マッサマン(ピーナッツを使用した濃厚な味わい)・ゲーンパーの6種類。それぞれの個性や旨みを引き出し丁寧に作られたペーストを炒めてココナッツミルクや出汁で伸ばし、ナンプラーで味を整えたら、ハチドリヤの「麹CURRY」の完成だ。取材した日のメニューは、マッサマンとゲーン・ソムのあいがけだったが、その日によってソースは違う。
「これを食べたら、僕がどんな人間かわかるでしょう」と笑う。自身が作る料理は自分の表現方法だといい、いろいろなモノが詰まっているという。そのひとつに、丹精込めて育てた野菜がある。「自分の畑で採れた無農薬の野菜もあれば、手に入った新鮮なモノ、旬のモノを使います」。野菜作りを通して「環境」を肌を感じたことも収穫のひとつ。
「旬が旬の時期ではなくなってきている。利便性を追求した結果、人間は住む場所を自ら壊している。そんな方向に向かうのをささやかながら止めることができれば」。大きなことはできないけれど、たくさんの人は変えられないけれど、自分は自分でできることをやっていくと話す馬場さん。クリキンディの「私は、私にできることをしているだけ」の言葉がそっと聞こえてくる。
ハチドリヤ
電話番号:080-5458-8130
instagram @studio8doriya
本場の味を堪能できる「MILANミラン」のインドカレー
カレーにナン。王道のインドカレーならここでしょ!
続いて紹介するのは、甲府の中心街にある、この道20年以上のインド人シェフが営む本格インド料理店「ミラン」。「ミラン」とは、ヒンディー語で“出会い・一緒・混ぜる・集まる”というような意味があり、2016年のオープン以来、多くの人がこの店の味を求めて日々集まってくる。
外観は少し派手めのインド料理店だが、店内に入ると白壁にインド布が映える可愛らしい雰囲気と清潔感のある過ごしやすい空間になっている。
「料理の味はもちろん、訪れる人が気持ちよく食事ができる空間やサービスにこだわっています。インド料理は、油やバターを多く使うのですが、それを最小限にすることや野菜を多く取り入れるなどして、ヘルシーで健康な料理を心がけています」とオーナーのジョシさんは言う。
本来はとても辛いインド料理だが、ミランのカレーソースは、玉ねぎペーストをベースに、12種類ものインドスパイスを使用した日本人の口に合う穏やかで深みがある味わいが楽しめる。また、本場の香りや奥深い味わいはそのままに、辛さ調整をしてくれるところも嬉しい。気になるメニューは、バターチキンやベジタブルカレー、マトンカレーやシーフードカレーなどの定番をはじめ、ひき肉をミートボールのようにしたものと卵などが入った贅沢な一皿「ミランスペシャル」や青菜の野菜(サグ)とチーズが風味に一層コクを添える「サグチーズカレー」といった、この店でしか味わえない特別なものも多数並ぶ。
美味しさはもちろん、コスパの良さから平日のランチはサラリーマンも多く、夜や週末はファミリーやカップルなどで賑わう「ミラン」。そのコスパ良しのランチは、A(カレー1種にナンorライス、サラダ)、B(カレー2種にナンとカレー、チキンティッカ、サラダ)、C(カレー2種にナンとカレー、シークケバブ、サラダ)の3種類プラスお子様セットで、チキン・キーマ・野菜・豆の4種類からカレーを選ぶことができる上に、カレー・ナン・ライスがお替わり自由。驚くことに、カレーとナンは、お替わりの注文が入ったところで、常に作りたてを用意してくれるこだわりようである。「インドカレーは、スパイスの豊かな香りが決め手。一番美味しい状態でお客様に食べてもらいたい気持ちがあるのです。注文が入ったら一皿ずつ作り、熱々をテーブルに運びます」とオーナー。
ちなみに、ランチの人気はBランチ。2種類のカレー、ナン、ライス・チキンティッカ・サラダ・ドリンク・デザートがセットになって900円(税込)というコスパだ。
ふっくらモチモチとした大きなナンは噛み応えたっぷりで、噛みしめるたびに甘さがほのかに広がる優しい味わいだ。ナンは300円プラスすると、表面はパリっと香ばしく焼けていて、中にはとろ~りチーズが入ったチーズナンに変更も可能。チーズのコクと生地の塩味がマッチして、絶妙なバランスでインドカレーを楽しめる。
陽気な会話もおいしいスパイス!
夜は20種類ものカレーからセレクトできるデリーセットが人気で、バターチキンカレー&野菜カレー、ナン(チーズナンに変更可能)、タンドリーチキン、サラダ、デザート、ドリンクが付いて1,260円とディナータイムもコスパの良さは申し分ない。また、アルコールも充実しているので、インドビールを片手にタンドリーチキンやミックスグリル、手羽先など、スパイシーな一品料理をつまむのもオツ。ボリューム満点のミランサラダもおすすめ!
ランチのようなお代わり自由ではないが、ボリュームは太鼓判を押したい。
ミランを訪れる人なら誰もが口を揃えて話すのは、味もさることながらサービスだ。甲府の中心にありながら、駐車場5台を完備している点を筆頭に、全メニューテイクアウト可能など、きめ細やかな部分にまで手が届いている。店内に入るなり流暢な日本語でフレンドリーな会話を楽しめ、親切でサービス精神旺盛と、どこを切り取ってもホスピタリティを感じられるのだ。
インド料理の食べ方や日本人には馴染みのないメニューを丁寧に教えてくれたり、テーブルには手書きポップでオススメの食べ方なども案内してくれている。美味しさで笑顔になり、接客でも自然と笑顔になれる…ここにいるだけでエネルギッシュになれる、そんな雰囲気を味わえる。
海外旅行に行けない今、本場インドの風をミランで感じてみてはどうだろう。
インドカレー MILANミラン
住所:甲府市中央4-3-25
電話番号:055-269-8177
営業時間:11:00~L.O.15:00 / 17:00~L.O.22:00
定休日:無休
Facebook: https://www.facebook.com/milanindianrestaurant.co.jp/
刺激的かつ情熱的、「カレー食堂 ビリヤタ」のスパイスカレー
スパイスをこよなく愛するスパイスマイスター
そして最後に紹介するのは、2020年4月にオープンした「カレー食堂 ビリヤタ」。ヒンドゥー語で、ビリは猫、ヤタは旅を意味し、オーナーシェフの横山茂雄さんが2つを掛け合わせて作った造語だという。横山さんは4年前に奥様の故郷である山梨に来た。洋食店の責任者を任されるために来た山梨で、次第に独立の想いを湧き上がってきたそうだ。洋食店でのカレー作りや、以前インド料理店で働いていたこともあったことから、カレー屋を開こうとなったのだが、実は横山さんは根っからカレーをつくることが好きだったと話してくれた。
「一時期ストイックな生活をしていたことがあり、化学調味料を使わない料理にハマり、独学でスパイスを学んだんです」。そのときは20年ほど前。ネットがまだまだ今より普及していない時代であり、スパイスを販売している店も少なかったという。いくらストイックな生活をしているからといって、20代の男性が情報もなく何故スパイスに興味を持ったのかというと、「母親がヨガの講師をしていた関係で、食にこだわりがあったことが影響していると思います」。
こうしてスパイスの奥深さを知り尽くした横山さんが作るカレーは完成した。
味も素材もスパイスも違うから、それぞれのカレーを作る
ビリヤタのカレーは、小麦粉を使わないグルテンフリーのスパイスカレーだ。1種・2種盛り・3種盛りから選ぶスタイルで、副菜とラッサムというスープが付く。カレーは黒板にその日のメニューが記されるが、全部で5種類にもなる。この日は、マイルド(レモンチキンココナッツ)・山椒ピリッ(山椒ポークキーマ)・中辛(ごろごろビーフ)・すっぱ辛い(豚なんこつビンダル)・辛口(ペッパーチキン)という顔ぶれ。それぞれ味も違えば調理方法も違うため、ベースは同じで味に変化を加えていく手法ではなく、5種類とも別々にカレーを作るスタイルを貫いている。以前行っていたストイックな生活に似ている気もするが、カレーへの強い愛情がある証に違いない。
スパイスカレーの魅力のひとつに副菜がある。副菜は、料理の味を引き立てたり、箸休めしたり、茶の色味の中で華やかな彩りを添えたりする、インドやネパールなどで日常的に食されている漬物のようなものだ。じゃがいもや人参、大根、ひよこ豆などを使った和食で言うと小鉢的存在である。オカヒジキ・赤大根ピクルス・ひよこ豆・モロッコいんげん・干し大根アチャール・新じゃがマサラ・ほうれん草マスタード・黒ゴマ・ラッサム・ししとうの10種がプレートに少しずつ可愛らしく盛り付けられている。日によって違うが、山梨県産の野菜や旬のもの、農家さんから頂いたものなどを用いて調理するそうだ。「食材ひとつ一つの特徴を引き出し、素材の味を大切にしています」。もちろん使う米は、「甲府で収穫されたヒノヒカリです」と、地産地消は敢えて謳わないが、地域に密着する想いが皿の上に現れている。
コロナ禍の中オープンしたことに驚かれると話す横山さん。“やらなきゃ!”という想いだったと1年前を振り返る。2020年の1月に契約し、セルフリノベーションで少しずつ手を加えていた矢先に自粛になった。「延期が決まった次点で、それでもオープンしないと!となりました。ただ店内にお客様はいませんでしたね」とテイクアウトで踏ん張ったと教えてくれた。近所の人や道行く人まで、テイクアウトをしてくれたと喜び励まされた横山さん。テイクアウトメニューはスパイスカレーのほかに、お子様チキンキーマやカツカレーなど老若男女の口に合うメニューも並ぶ。「所謂、親しみのある欧風カレーです。スパイスを使っていないので辛くも酸っぱくもなく、お子様にも食べられる馴染みの味です」。そのせいかビリヤタはカレー店には珍しく座敷があり、予約で席を確保することも可能だそうだ。
もしコロナが終息したら?と尋ねると「今は昼のみの営業ですが、夜の営業も早く始めたいですね。実はカレーって辛口白ワインに合うんですよ。アルコールを飲みながらスパイスのつまみを出したら最高なんだろうな」と、微笑んだ。
カレー食堂 ビリヤタ
住所:甲府市大里町1877-1
電話番号:090-4544-3120
営業時間:11:30~15:00
定休日:月・火曜日
instagram: @biriyata_
ぜひビリヤタさんのカレーと相性抜群のドリンクをお楽しみください!
※初回1回限り
※VivitBaseの管理物件入居者の方のみのサービスとなります。
ご予約時に入居者カードを使用する旨をお伝え頂き、店頭にてご提示ください。(カードのご提示が確認できない場合は、サービスをご利用頂けません。)
カレーに定義はない。スパイス、味わい、国籍、ジャンルなど、それぞれのひと皿にカルチャーがあり、カレーはさらに進化していくはずだ。自分らしく、自分の味覚で、もっともっと楽しんでほしい。まずは、VivitBaseが胸を張っておススメする3店へ行って、その文化を肌で感じてきてほしい。カレーはきっとみんなを結ぶコミュニケーションツールだと信じて。