甲府の街中、岡島の裏通りにある築70年余年の古民家を改装した「ゑびすや」、ここには宿泊スペースとシェアキッチンスペースがあります。
シェアキッチンは自慢のお菓子を作って販売される方、カレーランチ、グルテンフリーパンの販売、夜のワインバーなど、個性あふれる店主さんのこだわりの味が日替わりで楽しめる活気あるスペースです。
中でも開業前の周知や準備に、ゑびすやをご利用して頂く店主さんが多くいらっしゃいます。「最近はゑびすやさんから開業する流れがあるんですよ」とある店主さんから伺いました。今月はそんな開業という夢を実現した店主さん3名をご紹介します。
岩手と山梨を「つなぐ」パン屋。
パンとカジモト
ここは勝沼、ぶどう棚の下「パンとカジモト」2021年12月にオープン。
朝9時のオープン前からお客様が途切れる事なく、次々とパンを買いにくる。
店主の岩手県出身の梶本真さんにお話しを伺いました。
夢を追って。
岩手で受験に失敗、都内の予備校に通う為に上京。
予備校に通う中、梶本さんは将来の事を考えていた。
「自分にとって大学に行くメリットがあるのかな…」
そんな時パン屋さんから、香ばしいとてもいい匂いが。
「僕は昔から職人的な道に進みたかった…厳しい世界かもしれないけどパン職人、やりがいはすごくあるんだろうな」
そして進路変更、予備校を辞めて横浜の製菓製パンの専門学校に入りパンを専攻した。
山梨のぶどう棚に惹かれて。
卒業して12年間は東京と神奈川のパン屋で修行。
その後実家の岩手で妹さん夫婦とベーカリーカフェを開業、6年間パンとお菓子を作り続けた。結婚を機にパン職人でもある奥様とふたりでパン屋開業を目指すため、奥様の地元の山梨に移住。
初めて見るぶどう棚に感動、岩手にはない景色だった。
お店の場所探しに県内をめぐった時、勝沼の空気感に惹かれた。
「一面のぶどう棚、細い道に入ると小さい棚がだぁーっと広がって、他と違う空気感。凄い!こういう所でパン屋を出来たらいいなぁ」と梶本さん。
勝沼の知り合いの方がいろいろと調べて、紹介されたのはぶどう販売所。
長い間空き家でかなりの修繕が必要だったが、駐車場が広く取れるのが良かった。
敷地内のぶどうは、地元の農家さんが見てくれる事になりここでの開業を決意する。
その年の秋、お店のことを知ってもらいたいとクラウドファンディングを立ち上げた。
全国から多くの支援者が集まり、当初の目標額を越える資金が集まった。
その資金を改装費の一部に当てた。
夢の途中で、ゑびすやにてパン販売。
2021年春、ぶどう小屋の片付け開始。
たまたまゑびすやを知り、まだ厨房設備が無い今の自分にぴったりだと思った。
5月21日ゑびすやのレンタルキッチンで早朝からパンを仕込み、焼き立てをオープンスペースで販売。たちまち完売となった。
店名はパンとカジモト…?
何のお店かわかるように「パン」を入れ、語呂の良さでパン「と」カジモ「ト」、「と」でつなげた。なんともユニークな店名。
「パンとマコトでもよかったけど、奥さんが私はマコトじゃないと(笑)インパクトがあって興味を持ってもらえて、多くのお客様に覚えて頂けたら嬉しい」と梶本さん。
3日後に食べても美味しいパンを!
平日は地元の人、土日は県外や甲府から来る。月・火・水の定休日で下準備をする。
天然酵母、国産小麦、ライ麦はドイツ産を使用。
ドライフルーツやナッツ、チーズ等を使ったワインに合うパンづくりの他に、地元の人にも気軽に食べて貰いたいメロンパンや調理パンなども並ぶ。
こだわりは、旬を意識した美味しい素材を使う。そして、手間暇を惜しまずパンに合うように加工しバランスを考え混ぜ合わせる。
さらに天然酵母を使い、生地を長時間の熟成と発酵を取り、3日後に温め直して食べても変わらず美味しいパン作りをしている。
岩手と山梨をつなぐ…
岩手で自家焙煎している珈琲屋さんのコーヒーや、冬は岩手のりんごを置く。
「リンゴははね出しを売っても1日2日でなくなっちゃう、ビックリしました。岩手の味を知ってもらい、一方でSNSで地元岩手に山梨のフルーツの美味しさを発信、岩手と山梨をつなげるきっかけを作りたい」と梶本さん。
これからの夢は…
「地に足をつけて、地元の人に愛されるように長く続けていきたいです」と梶本さん。
最後にクラウドファンディングでの素敵なエピソードを。
「お金の支援ではなくて、私にしか出来ない事をしたいと。その方は絵が得意で描いて下さった絵が凄く良くて、それをお店の看板にしました」
すでに地元から愛されているパンとカジモトさんでした。
パンとカジモト
住所:山梨県甲州市勝沼町勝沼3063
営業日:木・金・土・日
営業時間:9:00~17:00
電話番号:0553-37-4650
Instagram:https://www.instagram.com/pan_kajimoto/
【ゑびすやご出店情報:2022年7月25日(月)15:30~19:00】
―近隣物件情報―
ふたりの地域おこし協力隊から始まった。
ふえふきマスタード
マスタードはわさびやサンショウとともに多用されるスパイスのひとつですが、そのほとんどが外国産。
笛吹市の地域おこし協力隊として、県産ぶどう果汁を使った希少な純国産マスタードを開発した風間早希さんと八木優彰さん。
風間さんは愛知県出身、2016年結婚を機にご主人の地元である笛吹市に移住。
仕事探しで、笛吹市地域おこし協力隊の募集に目が留まった。
「せっかくならやってみようかな」と応募。
※地域おこし協力隊とは、総務省による全国の過疎化が進んだ地域に外からの人材を受け入れ、地域の活性化を目的とする団体
八木さんは静岡県出身、任期満了後に就農のサポートを受けられる自治体ということで笛吹市を選び、現在はぶどう農家と兼業。
2016年の応募数はふたり、任期は2018年までの2年間だった。
ぶどうの産地は…セミナーでヒント
笛吹市の特産品は桃とぶどう、ふたりは違う目線で特産品をつくりたいと考えた。
「農産加工セミナー」で講師から「山梨県はワインで有名なフランスに似ている、ワインの産地はマスタードの産地」と聞いた。
マスタードの語源はラテン語で「ムスツム・アルデンス=燃えさかるぶどう果汁」、カラシナの種に未熟ぶどう果汁をまぜたのがマスタードの始まりだった。
日本にあるカラシナの種はほとんど外国産。
休耕地を利用してカラシナを栽培して種を収穫し未熟ぶどう果汁と混ぜる、純国産マスタードづくりのプランを立てた。
地域の特性を活かしたコンセプトが事業モデルに
2017年、このプランが総務省の「地域おこし協力隊のビジネスアワード」を受賞。
市場に出ない未熟ぶどうを有効活用して地場特産品を作る点などを評価された。
専門家のアドバイスや研修機会のサポートを受け開発を進めた。
春、畑づくりから始まる。
春、畑を耕し土づくりをして種をまく、5月菜の花が一面に咲き種となり、7月中旬に収穫。
収穫後がちょっと大変、天日干しをしてサヤから種を取る為に2~3回機械にかけてゴミ取りをする。これでカラシナの種を確保。
未熟果ぶどうを200キロ集める
ぶどう農家の八木さんの畑の未熟果の房を200キロ、コンテナ満載で軽トラック2~3台分を集める。(なかなかの重労働です💦)
小さい破砕機にブドウを入れて果汁だけを絞り出す。
ぶどうの未熟果汁はレモン果汁のようで、お酢並に酸が強いそう。
さらに加熱処理して瓶詰めして保管。1リットルの瓶に100本分出来る。
人手を頼む時もあるが基本はふたりでする(!)
ここからのマスタードづくりはシンプル、カラシナの種をぶどうの果汁と同量か少ない位のお酢に漬ける。ひとつひとつ丁寧に小瓶に詰めて保存庫へ。
香り高くフルーティーな純国産マスタードの完成。
マスタードを使ったサンドイッチをゑびすやで販売。
2019年地域おこし協力隊の任期を終了。
本格的にマスタード販売する為にふたりで「ぴりまるけ合同会社」を設立。
「マスタードを売るだけだと、ちょっと地味なのでマスタードを使った食べ物をやりたいけど、いきなり飲食店借りるとなるとハードルが高いし」と迷った風間さん。
そんな時、ゑびすやが再生しシェアキッチンになったというニュースを見た。
「是非使ってみたい」と思った。
2020年11月、ツナとアボカドのマスタードサンド、鴨肉とタルタルのマスタードサンドを販売、すぐに完売となった。
アンテナショップの移転、これからも地域貢献を
2021年3月笛吹市にアンテナショップオープン。
2022年6月石和源泉足湯広場に移転。
「足湯の温泉組合の場所をリニューアルして地域を盛り上げる起点にしたいとお声を掛けて頂いて、なにか協力出来たらいいなと移転を決めました」と風間さん。
ふえふきマスタードの魅力を発信
ホームページでは普段使いのマスタードレシピ、肉や魚、野菜、麺、パスタなど豊富なメニューを詳しく紹介。中でも一番簡単なのはポテトサラダ、市販品でもちょっと入れると大人な感じになるそう。
最後にこれからの事を伺いました。
「カラシナの委託栽培をしていますが、もうちょっと畑を増やしたい、種を渡すのでぜひ空いている畑があればお願いします」と風間さん。
おふたりの想いが花開き、地域の大きな実りになりました。
足湯喫茶 ふえふきマスタード
住所:山梨県笛吹市石和町川中島1607
営業時間:11:30~18:00(ラストオーダー17:30)
定休日:水曜日
電話番号:080-2480-4462
ホームページ:https://fuefuki-mustard.com/
Instagram:https://www.instagram.com/fuefuki_mustard/
―近隣物件情報―
インド料理の求道者、心も身体も元気になれる家庭料理を。
SPICE CORNER
2021年12月、甲府上石田にインド家庭料理のテイクアウト専門店「SPICE CORNER」がオープン。南インド料理も提供する県内ではめずらしいお店。
店主の戸田圭亮さんにお話しを伺いました。
4~5年前は都内でごく普通のサラリーマン。
インド料理を始めたのは、奥様がインドカレーの食べ歩きが好きで、一緒に南インドのカレーを食べたのがきっかけ。
「香りが凄く良くて今までにない味わい!」と衝撃を受けたそう。
日本の一般的なインド料理屋は北インド料理が主流でバターチキンやナンに合わせるカレー。当時南インドのカレーは都内でも少なかった。
もともとインドに興味があり、新婚旅行もインド(!)という戸田さん。
「チャレンジャーですよね(笑)冒険的な事が好きで、ふたりで一緒に楽しんできて。凝り性で追求するタイプなんです」
南インドの味の出会いが旅の始まり…
インド料理に精通した人達に何度も教えてもらう機会を得て、熱心に研究を重ねた。
人に振る舞うことが増え、いずれも大好評。
奥様の実家がある山梨に移住する事になり、このタイミングで会社を辞め、2019年に山梨に移住。インド料理を新たな生業にしてみようと決意し、開業に必要な準備を始めた。
山梨県のシェアキッチンを探して
どういう風にやっていこうと考えた時、東京では日替わりで出せるシェアキッチンのようなものが山梨にもあるかと調べると、オープンしたばかりのゑびすやを見つけた。
「まさに今の自分にとってはぴったりだなと思った」と戸田さん。
2019年暮れから2020年夏まで、数回ゑびすやで営業、すぐに完売。
その他に韮崎や、北杜市など山梨の各地で出店。
行く先々でも完売となった。2021年春、自店を出す準備を始めた。
旅の終着地は…
その年の12月「SPICE CORNER」をオープン。
営業日は木・金・土・日。土・日はインドのドリンクを提供するチャイスタンドを開く。
食材のほとんどは日本で調達できる。
べジとノンべジを選べるメニューは2~3週間おきに替わる。
取材に伺った日はミールス(南インドの定食)という特別な週。
主食は南インドで食べられているポンニライス、さっぱりとパラパラしてミールスに合う。現地ではバナナの葉っぱの上で汁物や多彩なおかずをライスと混ぜながら食べるそう。
皆さんの身体になじんで健康になれるような料理を。
次は南インドカレーの予定。
「南インドの気候は日本の酷暑に似て、食欲があまりない時は酸味のある野菜料理が食も進みやすく消化にも良い。まさに今の日本の夏にぴったりです。
冬は北インドの寒い所のマトンなど身体を温めるようなもの、季節に応じて<インドの各エリア>を打ち出して、今一番食べると皆さんの身体に馴染んで健康になれるような料理を出していきたいと思います」と戸田さん。
次なる旅へ。
「実はお店を始める前に、長い間インドへ修行に行くつもりでしたが、コロナでそれが叶わず、だんだん落ち着いて渡航出来る状況になって来たら、タイミングを見てインドに行き、リアルな家庭料理をもっと勉強したいと思っています」と戸田さん。
新たな旅が始まりますね。
戸田さんお忙しい中ありがとうございました。
SPICE CORNER
住所:山梨県甲府市上石田4-2-14
営業日:木・金・土・日(土・日は14:00~16:00チャイスタンド)
営業時間:11:30~13:30(お弁当販売)
※営業日時は月によって異なる場合があるためSNSで最新スケジュールをご確認ください。
電話番号:070-8464-5339
Instagram:https://www.instagram.com/spicecorner.jp/
―近隣物件情報―
いかがでしたか、
自分のお店を持つのは夢があります。
取材させて頂いた皆様の笑顔の裏には、苦しい時も自分の力を信じて諦めず、困難を乗り越えてきた情熱をお料理からたくさん頂きました。
どれもとても美味しかったです。ごちそうさまでした。
夢の途中でゑびすやをご利用頂きましてありがとうございました!
ご縁を頂いたことに感謝します。
またゑびすやで新しい出会いがありますように。
(南インド料理のミールスで夏バテが吹き飛んで感動する岩田でした)